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- ECB、バランスシートの縮小議論を先送り
ECBは10月26日の政策理事会で政策金利の据え置きを決定しました。ユーロ圏の景気後退懸念がささやかれることや、足元のインフレ圧力低下から違和感のない決定です。今後の関心はインフレ率が上昇する前の非伝統的金融政策で膨れ上がったバランスシートの縮小です。市場に与える影響を抑えつつ縮小させるのは簡単ではなく、ECBの今後の政策運営に注目しています。
ECB、市場予想通り政策金利は据え置くもPEPPについて議論せず
欧州中央銀行(ECB)は2023年10月26日の政策理事会で市場予想通り、主要政策金利を4.5%、銀行が中銀に預ける際の中銀預金金利を4.0%で据え置くことを決定しました(図表1参照)。政策金利を据え置くのは22年7月の利上げ開始から初めてで、11会合ぶりの据え置きとなります。今回の据え置きは全会一致での決定となりました。
なお、新型コロナウイルスへの対応で導入した資産購入策の特別枠(PEPP)は、少なくとも24年末まで償還があった分の再投資を続ける方針であることも発表されました。なお、ECBのラガルド総裁は会見で、理事会ではPEPPの見直しの議論をしなかったと説明しています。
過去の流動性対策などにより購入した債券はECBのB/Sの重荷に
ユーロ圏では、景気後退懸念がささやかれる一方で、インフレ率は物価目標を上回る水準ながら低下傾向は明確となりつつあります。現在の政策金利の水準は景気抑制的であることから、物価の落ち着きを見守りながらの利上げ停止の方針に意外感はありませんでした。
むしろ、市場の関心はPEPPの再投資方針の見直し、もしくは幅広い見地からECBのバランスシート(B/S)縮小戦略にシフトしているようです。市場ではPEPPの再投資見直しが議論されていなかったとの発表を受け、PEPPで恩恵を受けていたイタリア国債の利回りは小幅ながら低下しました。
ECBのバランスシートの構成をみると(図表2参照)、全体の規模は実線で示されているように7.1兆ユーロ(1125兆円)規模です。そのうち、非伝統的な金融政策(長期融資と量的金融緩和)で合計5.3兆ユーロと全体の約75%を占めています。
非伝統的な金融政策の構成は、銀行への長期融資としてTLTRO、量的緩和(QE)については15年中頃に導入されたAPPとコロナ対策で20年3月に導入されたPEPPとなっています。TLTROは低インフレ期の政策であり、役目を終えるたことから返済が進んでいます。そのためECBのB/Sシート縮小政策での関心はAPPやPEPPで購入(保有)された債券の取り扱いとなります。
なお、APPについては償還を迎えた債券の再投資をすでに停止しているため緩やかながら、債券保有額は減少しています。一方で、PEPPは今後の方針として少なくとも24年末まで償還があった分の再投資を続けるとしています。インフレ率がゼロ近辺で推移していた時期の流動性対策としてのAPPや新型コロナ対策としてのPEPP、ともに当初の役割を終えたとみられます。むしろ、高水準のインフレに直面する現局面では早めに縮小を進める必要性があるように思われます。
適切なバランスシートの規模を左右するとみられる過剰準備の水準
QEの反対に保有債券削減によるB/S縮小はQTと呼ばれます。APPは一応3月からQTを開始していますが、PEPPは再投資により残高が現状維持されています。ECBは今回APPのQTのペースに変更がないことや、PEPPについて24年末までの現状維持を表明しました。政策理事会後の会見で複数の記者がQTについて質問しました。それに対し、ラガルド総裁はPEPPなどについて議論はしなかったと簡潔に回答するにとどめました。
もっとも、ECBは適切なB/Sの規模について以前から情報発信を続けています。例えば、シュナーベル専務理事は今年の春にB/Sを適正な規模に戻す正常化について自身の考え方を表明しています。しかしB/Sの正常化で検討すべき問題は多岐にわたり、シュナーベル氏も議論には時間が必要であることを認識しています。
解決が難しい問題の1つは過剰準備の規模です。ユーロ圏の銀行には、銀行に預け入れが求められる最低準備金を上回る過剰な準備が積みあがり、ECBは預金ファシリティを提供しています。リーマンショック(世界的金融危機)後、民間銀行は金融危機後の厳格な金融規制をクリアするなどの理由で過剰に準備金を保有する傾向があったためです。現在は十分すぎる過剰準備がありますが、QTを開始すれば、適正な水準へと引き下げることとなりますが、どの水準が適正せあるのかに正解はないと思われます。米国では、余裕をもった過剰準備を維持する方針でQTを進めているものとみられます。一方、英国では個別銀行の過剰準備のニーズから適正規模を把握することで規模を把握しています。シュナーベル氏は、ユーロ圏に多様な銀行があることから、英国方式がフィットすると考えているようです。
なお、欧米や日本の各中央銀行は過剰準備の規模を維持するにあたり、過剰準備に対し付利しています。保有する債券の収益が利払いを上回れば収益となります。中央銀行の収益は財務省などに送られ、財政政策に活用されます。しかし、米国などではマイナスとなっており、23年財務省への送金はストップしています。資産と負債で逆ザヤとなっているからで、金利上昇に直面した中央銀行は事情は同様と思われます。その対策としては、逆ザヤとなっている保有資産を縮小する、もしくは過剰準備を減らすため金融機関がECBに預け入れる最低準備金を増やすことが考えられます。市場はECBが過剰準備を減らす方策のヒントを期待していましたが、それに対する回答はありませんでした。
PEPPのQTにしろ最低準備金引き上げであれ、金融引き締め政策であり、利下げ開始前に着手すべき政策です。決断までの時間が残されているとはいえ、それほど余裕はないように思われます。
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